一体いつから、

言われないようになったんだろう。


*おはよう おやすみ* (利鈴へ HP開設記念ー)


朝、目覚める。

中学の支度、する。

制服、着る。

ご飯、食べる。

家、出る。


この間、私に「おはよう」と言ってくれる人はいない。


夕方、帰ってくる。

私服、着る。

風呂、入る。

ご飯、食べる。

勉強、する。

そして、寝る。


この間、私に「おやすみ」と言ってくれる人はいない。


一体、いつからだろう。


――そんな話をしよう。



とりあえず、内申点を上げるには学校へ行かなければいけない。

まぁ、ってことで今私は教室の前にいるワケで。

ざわざわとした笑い声と話し声がごっちゃになる教室の音。

しつこいほどに眩しすぎる空。

うるさいほどに鳴く小鳥。

全部、全部、全部、全部、大嫌い。

――どうして朝って明るいんだろう。

そんな思いを精一杯に込めて、意味もなく「1−3」と書かれたプレートを見上げ、睨む。

しかし、いつまでもそうしているワケにもいかず。

私は小さく深く溜息をついて、くすんだグレーの扉を開けた。

別に同じなのに、そろりそろりと。音をなるべくたてないように。

その途端、いくつも視線が飛んできて、しかしその視線はすぐにくすみ、教室は一瞬しんとなった。

そしてそのまま、よそよそしくも面白そうに状況は元に戻った。

――私なんかいないみたいに。

うつむき床の木目を目で追い、通学カバンをボロい机の上に置くと、そのままそれに顔をうずめる。

時折女子のグループがこちらを向いては、ひそひそと何かを囁く。


これは俗に言う「イジメ」というヤツだろうか。


――低級な奴等め。


どうせ・・・・・・シカトと悪口くらいしかできないくせに。

低級で・・・バカな奴等め。


「おはよ」


その一言が、教室のあちこちで飛び交う。


最後にその言葉を言われたのは、

一体いつだっけ――


・・・・・・・・・・・・

そう、いつか。

小学五年生の冬。

遠いむかし――


「おはよう、ユカリ」

夢を見ながらまどろんでいた時、お母さんはそう言って。

私にそっと毛布をかけてくれたんだ。

なのに、あの日――私は、おはようって言えなかった。


その日の昼間、お母さんは、――どこかへと出て行った。


父は・・・いや、「あの人」は女と遊び呆けてばっかり。

生活費を置きに、月に一度夜遅く帰ってくるだけ。

言葉なんか交わさない。

九歳違いの兄は、母が出て行った半年後に行方不明になった。

親戚になんか、頼らない。

頼れない。

荒れた環境のウチを、誰もが影で嫌っているから。

関わりたくないと思っているに違いないから。


その時既に、低級な奴等は下らないシカトを始めていた。


私はそんな中、ひとつの結論を出した。

――下らない。

人間なんか・・・・・・果てしなく下らない。


特に学校がつまらないとも感じない。

特に学校が楽しいとも感じない。


ひたすら授業の内容だけを頭に詰め込んで、私は紅色の道を辿る。

楽しそうにはしゃぐランドセルの子供達。

変な格好をして、きゃーきゃーはしゃぐ高校生らしきグループ。

すたすたと足早に歩く、眼鏡をかけたサラリーマン。

とにかく、人、人、人、人、人、人、人、人。

なんだかめまいがしてきて、ふと視線を下に落とした。

長く伸びた影。

くっきりと伸びた影。

もうすぐ――夜だ。


すっかり濃紫に染まった空を見上げて――

ぱらぱらとついた街灯に照らされて――

私は鍵をポケットから出して――

カチャリ、差し込んで――


黒くなった私を迎えたのは、




「・・・・・・お母さん」




――――――だった。



お母さん何故ここにいるの出てったんじゃないの今までどこ行ってたの家大変だったんだよ勉強とかも難しくなってやっぱ大変だったんだでも

塾ってめんどくさいよね部活は入ってないよ特に興味ないしそうそうお兄ちゃんは家でてったよあとねお父さんにも最近会ってないんだよお母

さん・・・


母はこの暗いのに電気もつけず、ただ椅子にじっと座って、ダイニングテーブルに顔をうずめていた。

哀しいほどに静まり返った薄闇の中、嗚咽だけが響く。

母の嗚咽・・・

大人も泣くんだ・・・

当たり前のことに、私はショックを受けた。

「・・・・・・・・・お母さん」

私は足音をたてずに近づいて、そっと母のそばに立った。

何も言わずに、ただ、立った。

特に何も感じなかった。

感動の再会とか、涙の思い出とか、そういった要素は全く含まれていない母との再会。

今の私はどんな顔をしているんだろう。

――無表情、かな。

母の嗚咽が更に響く。

しつこいほど、響く。

――もういいよ・・・

とにかく、この嗚咽をどうにかしてほしかった。

幼いころ嫌というほど聞いたこの音に、おそろしく抵抗感を感じた。

体中が否定していた。

それでもしかし、頭を横に振って、その感情はすぐに消えた。

不思議な気持ちだった。

長い間、長い間、いなくて、でも心の中にしっかりと焼きついた母が――

今、ここに居るんだから。

「・・・・・・・・・・・・お母さんッ!」

強く母の肩を揺さぶった。

衝動的に。

そう・・・衝動的に。

私は、何を考えているんだろう。

考えてもわからない。

だからとにかく、その結論がこれだった。

一体どのくらい、揺さぶっていたんだろう。

機械的に、ただ揺さぶって。

そしてふいに力を抜いて、手をだらんとさせた。

「・・・・・・お母さ・・・ん」

自分から出た声に、驚いた。

それはまるで幼児のように弱弱しく、疲れた声だったからだ。

ひとり恥ずかしくて、もじもじとしていると、




「・・・・・・ユカリ・・・」



声が、聞こえた。

母の、声。

柔らかくて、澄んでいて、ゆったりとした声。

かすれてはいたが、記憶のそれと全く一緒の声。

私――を、私を呼ぶ、声。

私はただ黙り、闇に染まった母を見つめていた。

母は、小さかった。

大きかった母は、小さくなっていた。

小さい母が顔をあげて、


「ユカリ・・・・・・」


もう一度、ゆっくりと繰り返した。

暗くてはっきりと顔が見えなかったが、母が私を見ているのだけはよくわかった。



・・・あれ?

何か・・・・・・目が、熱いよ・・・

・・・・・・ヤバい・・・私、泣いちゃう・・・・・・

今更・・・・・・泣くなんて・・・・・・

うわヤバいよ、溢れてきた・・・・・・

止めなきゃ・・・涙・・・・・・

・・・・・・頬・・・つたってるし・・・・・・

・・・・・・・・・あーあ・・・・・・弱いなぁ・・・・・・私・・・・・・



「お母さんっ・・・・・・」


私は母に向かって飛び込んだ。



その後のことは、よく覚えていない。

記憶がとてもあやふやだ。

あの後泣くだけ泣いて、とにかくわんわん泣きじゃくって、

それから――


「おやすみ」


柔らかく優しい声に、そう言われたことだけは、確かにハッキリと覚えている――



ああ・・・・・・

そうだ・・・・・・・・・私、何強がってたんだろ・・・?

一番、一番、欲しかった言葉。

一番、一番、欲しかったモノ。


強がって、全部否定して。


今なら・・・きっと、私――



多分、明日は「おはよう」と迎えられるのだろう。

そしたら笑顔で返事を返して、色々な話をしよう。

暗い話は、避けられないだろう。

それでも、色々と話をしよう。



「おはよう」「おやすみ」

このふたつの言葉が。

この、なんでも無い当たり前の響きが。

こんなに優しいものなんて――・・・知らなかったから。


そうだ、明日は「おはよう」と言おう。

自分に。お母さんに。みんなに。

ね――?



end






*あとがき*


うわぁっ(謎

何か勝手にサイト名使っちゃってゴメン!

そして題名とぜんっぜんズレてて更にゴメン!!

更に更にHP祝いとかいって遅すぎてゴメン!!!

何より更に下手でゴメンッ!!!!

ってか意味不ですよね。あー・・・うん。

勢いで書き上げたんで少々無理があるところが・・・ 苦笑

何か利鈴のHP見てたら急に思いついちゃって・・・ こんな変な話・・・ 更に苦笑

こんなんで良ければ、読んでくれていると・・・・・・いやマジで嬉しいなー・・・何て思いつつ。

とにかくこれからもよろしくねw


2005/05/22  ミラsp


 
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